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「デザイン思考」は、デザインの制作過程だけで活用されているわけではない。AppleやGoogle、P&Gなどのグローバル企業では、早くから経営や事業を展開していく上で積極的に取り入れている。日本企業でも近年、市場構造の変化を背景に一段と関心が高まってきている。そこで、今回はデザイン思考の意味や思考プロセス、相性の良いフレームワークなどを解説していく。
「デザイン思考」とは、デザイナーやクリエイターが業務で使う思考プロセスを活用し、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るための思考法だ。英語では、Design Thinkingと表記する。
「デザイン思考」には、3つの特徴がある。
(1)問題解決に向けて最も重きを置く要素は、ユーザーの「共感」、「満足」である (2)問題の定義付けと解決意図を明確にした上で、アイデアの創出と組み合わせの試行錯誤を繰り返しブラッシュアップしていく (3)バイアスや固定観念を取り去り、前例にも捉われない
「デザイン思考」が注目されている背景としては、市場構造の変化がある。これまで、製品やサービスなどを開発する現場では、マーケットやユーザーニーズを調査し、仮説を設定・検証して製品を開発するという、「仮説検証型」のアプローチが主流であった。
ただ、変化が激しく予測困難なVUCAの時代では、このスタイルがもはや通用しなくなってしまっている。リサーチを行っても、課題の本質を迅速に捉えることが難しい案件が急増しているのである。また、急速な技術革新により、社会構造が大きく変化していることも見逃せない。それらの結果として、イノベーションを導きやすい「デザイン思考」がクローズアップされていると言える。
「デザイン思考」と混同しやすい言葉にアート思考がある。実は、この二つはいずれも、アイデアを創出するためのものだが、明確な違いがある。「デザイン思考」で基盤になるのはユーザーニーズであり、すでにある製品やサービスをさらに進化させる場合に有効だ。一方、アート思考で起点となるのは自分が持つ自由な発想である。ありえないことも含めて発想するので、誰もが思いもつかなかったアイデアを生み出すこともあり得る。どちらが良い、悪いではなく、目的やシーンによって使い分ける必要があると言えるだろう。
スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所では、「デザイン思考」を実践する際には、以下5つのプロセスを踏んでいく必要があると提唱している。
「デザイン思考」は、まずユーザーの共感を得ることから始まる。具体的には、インタビューやアンケートを行ったり、観察したりすることにより、ユーザーが何に共感しているのか、本当に求めているものは何かを見つけ出していく。ここで、注意しなければいけないのは、聞き取ったユーザーの意見を鵜呑みにしないこと。ユーザーがどういう想いでそう回答したのかという、本音をしっかりと探り出す必要がある。
ユーザーの「共感」をヒントに、ユーザーのニーズを定義する。本当は何を実現したいのか、潜在的な課題は何なのかを深掘り、抽出していく。なかには、ユーザー自身でもまだ気付いていないニーズもあるだろう。言語化されている背景にあるユーザーの想いも分析していきたい。それができれば、目指すべき方向性やコンセプトはかなり策定しやすくなるだろう。